2013年度

昨年度は初渡航で現地調査が主であったが、今年度は継続性のある活動を目指して五カ年目標を設定し、『健康に関する児童の知識の礎を築く』というテーマの下で、以下の活動を行った。

家庭訪問

 家庭訪問の目的は、以下の3点である。

・児童の生活環境を把握することで、地域コミュニティを把握する一助にする。

・水を供給するインフラ整備と適切なアクセス環境が問題であるので、キンシャサ近郊キンボンド地区の水へのアクセス環境を調査する。

・建築・教育分野と協働して行われている小学校での保健活動に対し、地区内の保健衛生状況を調査することで学校保健に還元する。

 

 コンゴ民主共和国キンシャサ近郊キンボンド地区を対象とし、2012年および2013年にかけて同意の得られた計20家庭を訪問し、ワクチン接種状況、感染症対策、母子保健、水環境、栄養状況等の質問について調査した。

 

 結果、1家庭1回あたり水運びに要する時間は平均16.8分で、ほとんどの家庭の往復10分以内の場所に、水供給所が存在していた。

 また、出産後に母子が検診を受ける時期にはばらつきがあった。

 母乳を続けた時期や粉ミルク・離乳食を始めた時期に関しては、適切に行われている家庭が多かった。

 

 考察として、(水)UNDPが定める安全な水へのアクセスとは『自宅から1km以内にある水源から最低1人1日20ℓの安全な水を利用できること』であるが、訪問家庭のほとんどは安全な水へのアクセスを満たしている。

 キンボンド地区では2年後には各家庭に水道が引かれる予定であり、水道状況が過渡期であるので、今後も評価を続けていく必要がある。

 安全な水へのアクセスがこのように整備されることによって、水運びに要する時間の短縮と下痢等の減少に繋がる可能性がある。

 水運びの中心を担う女性の就業時間の増加や子どもの教育機会の増加が進み、教育施設を含む街作りのハード面・ソフト面の整備がより必要になる可能性がある。

 

(母子保健)訪問したほぼすべての家庭が医療施設で出産していた。これはキンボンド地区は最近住宅増加に伴い、移り住んで来た人が多い事、伝統的産婆がいないこと、医療施設の充実が要因であると考えられる。

 医療施設における高い出産率に比べ、妊娠中や妊娠後のケアに関しては十分に認識されているとは言い難い。母子手帳も存在するが、自宅に保管している家庭は13家庭中5家庭であり、出産前後についての意識が浸透していない可能性が高い。


健康診断

 健康診断は、「小学校に安心・健康に通うこと」を長期の目標に,現時点での健康状態について知り,成長に興味をもち,実感してもらうことを目的とした。

 

 3歳〜13歳の男児46名、女児34名(計80名)の身長・体重・体温・視力・腕囲測定および内科的診察と、50m走,立ち幅跳び,握力,脚力を行った。

 

 結果、WHOの成長曲線(SD)と比較したところ,それぞれ-1SD〜0の間に55%,41%,48%,41%と多く,次に1〜1SDの間に9%,21%,30%,33%分布した。 SD(標準偏差)とは子どもの身長のバラツキの程度を表している。

 BMI(=体重(kg)/身長(m)^2)では標準22より全て低値。ローレル指数(=体重(kg)÷身長(cm)×10^7(小児の肥満判定指標))では標準130とし,130+30以上の太りすぎが2名,130-30以下の痩せすぎが7名いたものの18名は130±15におさまった。

 

 今後の展望としては、健康診断は疾患を<診断>し、<治療>することを目的とするのではなく、個々の子供の成長過程を見守ることが目的である。そのためには,まず健康状態に関しての情報・環境があること(=測る),それを継続的に行うこと(=楽しみながら続ける),そして客観的に捉え管理すること(=知る)のサイクルが必要である。その導入として健康手帳,健診結果表,健康診断だよりを作成した。今後もこの3点を中心にゆくゆくは児童・教員が自ら定期的に健康診断を行う事ができるよう活動を続けていく。

 


ワークショップ

 ワークショップの目的は、手洗いがなぜ大切であるのか、そしてどのような方法で行うことで簡潔に、そして継続的に行うことができるかという視点を重視した。一方的な講義スタイルでなく、子どもたちの参加に重きを置き、その経験を共有することによって、実感として感じてもらえるよう工夫した。

 

「行った内容」

 

(ⅰ)『小さい世界を見てみよう!!』 

①何を見ているの??

 普段目に見えないような小さいものを「拡大して見る」という仕組みを理解。

②実際に見てみよう!!(ルーペ編)

グループごとに塩と葉っぱを配り、ルーペにて観察。

③実際に見てみよう!!(顕微鏡編)

 顕微鏡をのぞいてみて、見えているものが何であるかを布・紙・チョークから当てるクイズを行った。

(ⅱ)寄生虫に関する寸劇&観察

 普段目に見えない寄生虫がどういったものなのか、また実際に体にはどのような悪さをするのかということの理解のために、寸劇を行った。

(ⅲ)手洗いの実践

 今年度は手洗いチェッカーを新たに導入した。手洗いチェッカーは特殊な光に反応し、汚れが残っている部分が白く光る仕組みで、手の洗い方を教育するだけでなく、手洗いの足りていない部分を指導することが出来る。バケツに水を入れ、石鹸をつけて洗った。キンボンド地区には基本的に水道が無いため、このような手洗いの仕方をとった。その後布で手を拭いた。

(ⅳ)汚れていたのはどこだ??

 最後に大きな模造紙に描いた手の絵に、どの部分が汚かったかを実際に子どもたちにマーカーで印をつけてもらった。自分でどこが汚かったかを考えることにより、頭に残りやすくした。

 


ママココ孤児院

 ママココは、キンボンド地区の地域医療を支える地域病院であり、また孤児院を兼ねた施設である。今回の渡航では、このママココでの滞在に重きを置き、1週間という長期にわたって滞在した。これは、前回の渡航で見ることができなかった1日限りに見学ではわからない細部の部分の見学を目的とした。

 


JAPAN-CONGO DAY

 8月24日、キンシャサ市ISP内文化交流センターにおいてJAPAN-CONGO DAYが催され、本研究会も参加した。

 コンゴ民主共和国において慶應義塾大学が今までに行ってきたことの説明を藤屋先生、竹林先生がプレゼンされた。藤屋先生はMDGsを始め、世界の保健状況に言及し、コンゴがどのような現状であるのかの説明を成された。武林先生は終戦後の日本の保険状況が現在のコンゴときわめて似ており、そこから日本がどのように衛生指標を改善してきたかを具体的な写真等を混ぜながら解説された。


地域散策・施設見学

 施設訪問では、保健人材センターとコンゴプロテスタント大学を訪問した。前者は日本国際協力機構(JICA)によって建てられ、医師を除く看護師や臨床検査師等の育成を行っている。後者の大学は、大学自体は50年程前からあるが、新設した医学部卒業1期生を来年輩出する。両校において見学と共に校長や理事長と話す機会を設け、交流を深めることができた。これらは医療チームの現地でのカウンターパートを探すこともその目的としている。コンゴの人々と協働で進めていくことにより、本当の意味での現地のニーズにこたえていくことができると考えている。

 また地域散策を行い、診療所や薬局、また水道や学校など、この地域の人々がどのように生活しているのか、手がかりを探った。私たちが歩ける範囲にあった診療所は、建設中のものを合わせると4件あった。いずれもprivateの病院であった。薬局に関しては、ザンバに2店・住宅街に1店見つけた。そのうち、訪問を許可された1件を例にとると、70〜80 種ほどの薬品が確認された。調査して分かった範囲では、小児用ビタミン・ ORS(経口補水液)・胃腸薬・呼吸器疾患治療薬・アシドール・アスピリン(鎮痛剤) ・マラリア薬(キニーネなど)・注射液などの薬品が挙げられる。